自分の心に忠実に生きてきた、誰も知らない長嶋りかこの話(2)
消費のスピードに気持ちがついていけなくなった
長嶋 広告って良くも悪くも基本お祭り好きなんだよね。どんちゃんどんちゃん盛り上げて、一気に咲かせる感じ。
菜衣子 あ、それ何かで読んだな。広告の人はお祭り以外の仕事はできないから、ウェブのような保守の仕事は絶対にできないっていう。
長嶋 今はまた時代もかわって違う体質の仕事を見かけたりするから、広告屋の役割も変化してると思うけど、基本的にはジワジワ育てていくってことには慣れていない体質だったんじゃないかな。
菜衣子 締切があるから生きていけるよね。締切の後のビールうまい!みたいな。
長嶋 ちと脳天気かもね(笑)。最初はとにかく目の前の仕事を覚えることに必死だったけど。徐々に、きた仕事そのものに、うーんって疑問を持つようになった。例えばイケイケドンドンをさらにイケイケドンドンにする仕事は、それってもういいよって思ってしまうようになって。そういう既に光のあたっているものよりも、社会の中で陰になっていて見えていないものを、もっと伝えたほうが意義があるよね。
ジョニー それって博報堂にいた頃から思っていたの?
長嶋 うん、実はずっと思ってた。どんなに自分が広告屋として外側のデザインやブランディングをがんばっても、私が作れない”商品の中身”がだめだったら、外側でうまく騙してるみたいで胸が痛くなっちゃう。例えば私の友達や家族は「これはりかこがやったやつだから」って買ってくれるんだよ。そのときに、”みんな買わないでいいから!”って思ってしまう…。デザインって、そのもの以上にどんどん作れてしまうから、その辺のモラルって必要だと思うし、本当はかなり責任があるんだよね。人を騙しちゃう事にもなるから。昔、これを先輩に話したら「お前本当にナイーブだな〜」って言われた(笑)。たぶん、ナイーブじゃない人に向いてる仕事なんだよね、広告は。
菜衣子 じゃあ、広告っていうよりはナイーブ担当だ(笑)
――この「自分にとって嫌なものに自覚的」であること。つまり「これじゃない感」って、すごく大事だと思うんです、オフグリッドライフに。世の中の主流とされているものから離れ、自分自身を生きるには「これじゃないもの」から離れていくことが必要ですよね。これがなかなかできない。なぜなら多くの人はまず、自分の「これじゃない感」に正直になれないから。これじゃなくてもしょうがないですよね、仕事だったら。お金を得なくては生きていけない環境だったら「これじゃない」とか言ってられないわけです。なぜ長嶋さんは正直になれるのか。それは「お金がなくても生きていけることを知っている」からだと思うんです。最後の最後、頼れる価値観があるからです。
長嶋 車の仕事が来ても、本当に環境にいいとか、体が不自由な人にとっていい車だったらやるけど、ただのモデルチェンジならどうでもいいと思って。だから「免許ないんです」って強引に断ってた(笑)
菜衣子 それ、すごいね(笑) つまり、長嶋りかこは博報堂で浮いていたってことだよね?
長嶋 そうだねぇ(笑)。でも、私にとっては浮くって嬉しいことで。
――こう考えると、長嶋さんは生まれた時からずっとオフグリッドだったとも言えます。生まれも育ちも仕事でも、メインストリームからちょっと離れて、オフグリッドな生き方をしていきたわけです。
菜衣子 でもさ、りかこちゃん級のメインストリームの人が、こういうこと考えてるって、珍しいよね。
長嶋 いろんな人のやり方をみてて、すごいなぁと思いつつ、でもこれは自分にはできないなぁって思ってた。成長するための苦しみは全然いいんだけど、人を真似るとその人になれない自分に苦しむから、自分の心にすっと落ちる自分のやり方を、自分の変化にフィットさせながらやってる感じ。こうやって独立して、より心地よくできてきている気がしてる。ずっと、”いわゆる広告”には向いてないなぁって思ってたんだけど、でも、「デザイン」ってものにはものすごく前向きなんだよね。もっと出来るはずって思う。
――嫌なものを「これじゃない」と断っていくと、どうやら自分のやりたいことができるようです。でも、そうですよね。嫌なことは選択肢としてどんどん潰れていくわけですから、ちょっと遠回りかもしれないですが、それは自分が自分らしく生きる道へとつながっているわけですね。それでは、そんな長嶋さんが「これだ」と思えることってなんなんでしょう?
>>つづく
PRISTINE×Rikako Nagashima
“Slow cloth”
会期:5月11日(月)~5月19日(火)
会場:伊勢丹新宿店本館5階=センターパーク/ザ・ステージ#5
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