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〈後編〉オフグリッドで、未来とつながり直す / 暮らしかた冒険家 presents OFF-GRID LIFE

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crosstalk
2015.02.08

暮らしかた冒険家 meets

volume 6トレーラーハウス、そのタイニーな暮らしの実験

  • Text石神 夏希
  • Photo伊藤 菜衣子

〈後編〉オフグリッドで、未来とつながり直す

千葉県いすみ市。畑に囲まれたのどかな田舎道を進むと、林の向こうに可愛らしいトレーラーハウスの姿が見えてきます。greenz.jp 編集長であり、わたしたち電力の言い出しっぺでもある鈴木菜央さんの自宅です。敷地内には菜央さんの書斎になっている可愛らしい小屋も。 新年早々この家を訪ねたのは、生まれたばかりの長男・墾くんを連れた暮らしかた冒険家のふたり。2014年7月末に家を設置し、9月に引っ越して約4ヶ月。トレーラーハウスで暮らし始めて、何がよかった? 何が変わった?そんなリアルな疑問をぶつけました。 トレーラーハウスでのオフグリッド生活、どうっすか?

ずぼらな人でもできる“なんちゃって”オフグリッド

菜央さんのオフグリッドな暮らしの実験は、庭に建てた小屋から始まりました。
現在、室内灯とパソコン、スピーカーの電力すべてを太陽光パネルと電池でまかなっています。ちなみにこちらの小屋、YADOKARI小屋部と一緒に企画してつくった小屋で、わずか2週間で延べ150人もの参加者と一緒に建てたもの。

菜央さんの書斎小屋

菜央さんの書斎小屋。もちろん電気はオフグリッドです。

菜央さんの書斎小屋。もちろん電気はオフグリッドです。

トレーラーハウスの設備はまだこれからですが、パネルも電池も準備済み。タイニーハウス暮らしで月3千円分にまで下がってきた電気使用量も、24時間稼働している浄化槽のブロワーやまだLED電球に交換できていない白熱電球など、まだまだ改善の余地=電力消費を抑えられる可能性があります。

菜央:電気代が月2千円くらいまでいくと、いよいよオフグリッドが見えてくる。この家はもともと床暖房があるから50アンペアの設定だったけど、うちは一切使っていないので30アンペアに下げられた。もうじき15か10にする予定。

今はまだ、いきなりオフグリッドにしないで、まず電気の消費量を減らす段階。分母が大きい状態をオフグリッドにすると、追加で買わなきゃいけない電池とか、設備投資にすごくてお金がかかってしまうから。
サブとして、電気契約も5〜10アンペアは残しておくつもり。

菜央さんの場合はインバーター、チャージコントローラーは以前購入したものがあり、パネルはソーラー発電会社を運営する友人からもらってきたため、毎月の電気料2千円くらいに相当する電力なら、6万円くらいの追加投資でオフグリッドできる計算。2年弱で回収できる金額です。
さらに薪ストーブを入れれば、灯油代もゼロに。プロパンガスを完全にオフグリッドするのはややハードルが高いので、屋根に手づくりの太陽熱温水器を設置し、ガス給湯器に温水を供給する「なんちゃってハイブリッド給湯器」にチャレンジするつもりだそうです。

電気使用量を下げるためにも、薪ストーブの暖房効率を上げるためにも、大前提となる重要なことがあります。それは、家の「断熱」。タイニーハウスは小さいからこそ、断熱しやすいというメリットもあります。

トレーラーハウスの床下。ここを断熱する予定なのだそう。(このインタビューの後、すでにやってました!→https://www.facebook.com/photo.php?fbid=10152669490537963&set=a.10150595631252963.386317.605247962&type=1

トレーラーハウスの床下。ここを断熱する予定なのだそう。(このインタビューの後、すでにやってました!→https://www.facebook.com/photo.php?fbid=10152669490537963&set=a.10150595631252963.386317.605247962&type=1 )

こちらのトレーラーハウスでは、床下と窓を断熱する予定。床下には断熱材を張り、窓はもともとペアガラスですが追加の内窓、ハニカムの断熱ブラインドなどを検討中。視察に行ったアメリカのポートランドで見た、キルティングの断熱ブラインド(手づくり!)も印象的だったそう。

さらに、テレビのアンテナも“オフグリッド”してしまいました。もともと、菜央さんが見たい番組はサッカーのワールドカップとドキュメンタリーだけ。

菜央:近くの公民館でパブリックビューイングを企画すればみんなで見れて楽しいし、ワールドカップが迫ってきたら、友だちの家を渡り歩こうと思って。あいつの家のガレージにでっかいテレビがあるから集まろうぜ! じゃあ◯月◯日の◯◯戦はお前の家な! みたいな。そうやって友達と一緒に見れば、テレビがなくても大丈夫。

その他にも自家用車を電気自動車に替えてカーポートの屋根に置いた太陽光パネルから直接充電する、太陽熱を利用した空き缶ソーラーヒーターなど、やってみたいアイデイアはたくさん。
とはいえ東京で働き、仕事でもたくさんのプロジェクトを抱えて多忙な菜央さん。すべてをDIYでやったり、生活の全部をオフグリッドしたり、高い完成度を目指すことは考えていません。
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菜央:安くて手をかけずにできること、僕みたいに忙しくてずぼらな奴でもできることをやりたい。普段の生き方まで考えていくと、そんなに細かくやっていられないでしょ。そんな俺でも安定運用できることなら、みんなもできるだろうし。だから “なんちゃって”をたくさんやりたいんだよね。

小さく、楽しく、がんばりすぎない範囲で。そんな新しい暮らしの実験場に、タイニーハウスはぴったりなのですね。

オフグリッド=つながり直す知恵

引っ越しの時はご近所さんへの挨拶回りを丁寧にしたという菜央さん。新築であれば数ヶ月かけて出来ていきますが、トレーラーハウスは完成品を運んでくるだけ。ある朝、目覚めたら空き地にいきなり家が出来てた!なんて、ご近所さんもひっくり返っちゃいますよね。

引越し前にちゃんとご近所へ挨拶まわりをした菜央さん。たしかにトレーラーハウスがやってきたらたまげるかも!こういうのは大事ですよね。

引越し前にちゃんとご近所へ挨拶まわりをした菜央さん。たしかにトレーラーハウスがやってきたらたまげるかも!こういうのは大事ですよね。

近隣のお宅・約30軒を回って直接手渡ししたというお手紙には、家族ひとりひとりの名前と年齢、「家を設置させて頂きたく存じます」の挨拶文。
ご近所の人たちの反応はどうだったのでしょうか?

菜央:びっくりしてたね(笑)。ただこのエリアに4年は住んでるから、子どもの小学校の父兄とか知り合いもいる。みんな“面白いね〜”みたいな反応で、怒る人は全然いなかった。

もともとこの辺りは海にも車で10分という好環境でもあり、移住者が多いエリア。新しい生き方や暮らし方に関心の高い人も多い土地です。

菜央:でも相当、気を使いました。工事の時は改めて、通行止めのご案内もした。でもおかげで、ご近所さんとも知り合えたからよかった。
土地も買ったし、これを機に消防団に入ったから、“どこかに行っちゃう人ではないんだ”と思ってくれたんだろうね。地元の人たちがやっと迎え入れてくれて、周りの見る目が変わった気がする。
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また菜央さんは最近、地域の人たちと一緒に薪集めにも参加しています。その名も「薪ネット」。
農家さんにとって、山の手入れを自分でやるのは大変です。そこで薪ネットが依頼を受けてボランティアで伐採をする代わりに、出てきた薪を無料でもらうという仕組み。共有の薪割り機で半日ほどかけて山積みの薪を作り、各自“自分が貢献したと思う分”を軽トラに積んで持ち帰ります。

いずれ設置する薪ストーブのために、薪は薪ネットでシェアする実験中。

いずれ設置する薪ストーブのために、薪は薪ネットでシェアする実験中。

菜央:薪集めが人のつながりをつくっているんだよね。自分だけでやるとすごく大変だけど、みんなで協力すればやりやすい。クラブでは薪の基本やチェーンソーの使い方を教えてもらったり、おすそ分けをもらったり。
暖房代もタダになるし、皆ともつながれるし、地域の資源は活用されるし、森もきれいになる。そういう、全部つながった、理にかなった暮らしをひとつずつ作っていきたい。

お金のかわりに、必要になるもの

私たちの暮らしがこれまで依存してきた大きなシステム。そのつながりを媒介してきたのは、お金でした。ですがオフグリッドがもたらす新しいつながりには、お金に代わって別のものが必要になります。

菜央:たとえば、薪を買わない暮らしは、時間と手間がかかる。その楽しさを一度知ると、自分の働き方や暮らし方を全部、見直したくなってくる。時間の使い方が変わるんだよね。

菜央さんは現在、東京のオフィスに週4日ほど通っています。仕事が忙しくて、なかなか暮らしをつくること、地域の未来につながることをする時間がないのが悩みだそう。

菜央:自分の中で、東京での時間の使い方、つまり資本主義社会でのお金と時間の使い方と、ここでの暮らしのつくり方や、たとえば薪ネットでの人とのつながりとを、どうバランスさせて行くか? 悩みながら模索しています。

いいバランスの暮らしをつくっていくために必要なのはまずは無駄な支出を減らすこと、しあわせに生きていく上で大事なところから「つくる暮らし」を少しづつ増やしていくこと。

妻のともみさんが取材中に焚き火で焼き芋を焼いてくれた。都会のマンション暮らしではできない贅沢。

妻のともみさんが取材中に焚き火で焼き芋を焼いてくれた。都会のマンション暮らしではできない贅沢。

コンポスト。生ごみはこちらへ。ごみを捨てる回数も減ったとか。

コンポスト。生ごみはこちらへ。ごみを捨てる回数も減ったとか。

自分でつくる暮らしは、お金はかからないけど時間や手間がかかる。だからこそ、作業や場所や資源をシェアできる「仲間」や「つながり」が重要になってきます。

菜央:“自分の暮らしをつくる”というと自分で全部やるみたいなイメージがあるけど、薪ネットみたいに皆でやれば、やりやすい。薪割り機は15万円くらいするけどシェアすれば持てるし(手作業に比べて)ものすごく早くて、10人で半日作業すれば薪の山が出来る。それを定期的にやって、2年前とかにストックしたものから使う。

シェアすることで個人の時間も確保して、みんなとの関係性もつくりながら、持続可能な社会をつくる、ということ。
鈴木菜央さん
すべてを自力で何とかしなくてもいい。こうした「つながり」をつくるために、もうひとつ菜央さんが関心を持っているのが、地域通貨がつくるローカルなつながりと経済。

菜央:今、グリーンズで「ローカル経済とコミュニティ」クラスを企画したりしながら自分も勉強中です。地域通貨って、純粋につながりとコミュニケーションが増えるんですね。地域内にいる人と需要が見えるようになる。お金を払って解決することじゃないけど、無料じゃ気が引ける、そういう需要。「引っ越してきたから家財道具を募集しています」とか、「◎月◎日、駅から家まで送ってほしい!」とか「この番組を録画してほしい」とかそういう情報が飛び交うわけです。「パティシエ目指してるけど、お菓子つくったから売ります」とか小商いの実験もできる。地域のコミュニケーションツールとして、ローカル経済が生まれる場所として、すごく可能性を感じています。

野菜も常温で。冷蔵庫がなくてもぜんぜんなんとかなると気づいた。

野菜も常温で。冷蔵庫がなくてもぜんぜんなんとかなると気づいた。

今まで私たちの暮らしを支えてきたシステムを一気に「オフ」するだけでは、孤独だし、しんどいし、きっと暮らしが破綻してしまいます。
「オフ」するためにこそ、もっと心地いい関係性に「つながり直す」知恵が大切なのです。

一人ひとりができる、生き方の実験

誰もがワクワクするような、菜央さんの暮らしの実験。ですがその出発点にあるのは、すでにあちこちでひずみやほころびが生まれている資本主義社会に対する危機感です。

菜央:今の経済システムがこのまま持続するとは思えない。あと数年で中国の
不動産バブルが弾けたら、日本はまた激震に見舞われる。その時に何でもお金で解決する生き方をしていると、かなり被害をこうむると思う。
だから皆、もうひとつの軸足を持った方がいい。そういう暮らしの実験をしたいんだよね。

「僕は専門家ではないけれど」と前置きした上で、菜央さんが話してくれたのはこんなシナリオでした。
資本主義は、フロンティアと市場の「差」で儲けるシステム。人件費が安い途上国というフロンティアでつくって、市場がある先進国が買うパソコン、スマートフォンはそのいい例。僕たちが豊かに暮らせている理由。全世界がフラットにつながったり、データのコピーがほぼ無料のインターネット空間というフロンティアと、いろいろな制約があって市場がある現実世界という差を活かすビジネスもたくさんありますよね。でも、途上国はどんどん豊かになってきているし、全員がインターネットにつながってくると、差を活かしたビジネスもどんどんやりにくくなってきた。

そこで、今や日本やアメリカの飽和した資本主義経済は、フロンティアを新たにつくるほかなくなってしまった。その結果、自国の中で格差がつくり出されつつある。一人ひとりに聞いてみればそんなことを求めていない人がほとんどなのに、システム全体としてはそれを目指してしまう。資本主義社会ってそういうものなのかなって思っています。

菜央:その先に未来があるのかというと、“ないよな”と思う。今の経済システムに加担するような生き方をしていたら、資本主義がおかしくなっちゃった時に本当に対処できなくなっちゃう。
鈴木菜央さんのトレーラーハウス
だから自分の暮らしのニーズのすべてを消費行動で満たすのをやめて、お金じゃない解決策とか、困ったときに助け合える人間関係とか、自分で食べ物をつくる力とか。そういう、もうひとつの生き方を一人ひとりが実験して、模索した方がいいと思う。
実際、そっちの方が楽しいと思うしね。

菜央さんが実験しているのは、私たちひとりひとりがオフグリッド=私たちの未来を望まない方に導きかねない大きなシステムとの相互依存を断ち切って、もっと気持ちいい関係性や大切にしたい人たち、自分の望む未来とつながり直すこと。まさにOFF-GRID LIFEが提案する「わるい“繋がり”を減らして、よい“繋がり”を増やしていく」ことです。

子供部屋

なんだか嬉しかったのは、「新しいお家に引っ越してきて、どう?」という質問に、娘のにこちゃん・みりちゃんが「楽しい」「気に入ってる」と答えてくれたこと。
暮らしの冒険は、やっぱり楽しくなくっちゃ。まだ始まったばかりの菜央さん一家のタイニーな暮らし、これからがますます楽しみです。