第三回|消費者が変われば、世の中は変わる
消費者が変われば、世の中は変わる
これからのエネルギーと暮らしを考えれば合理的な選択であり、かつエアコンでは叶えられなかった「質の高い体感温度」を実現してくれるエコハウス/パッシブハウス。なぜ、なかなか普及しないのでしょうか?
森:たとえば「メーカーがいい窓をつくらないからダメなんだ」という建築家がいる。でもメーカーの言い分は「工務店の意識が低い」。じゃあ工務店はといえば「消費者の意識がまだついてこない」。
結局、消費者のせいにされるんですよ。逆に言えば、消費者が「こういうものが欲しい」「こっちがいい」と言えば、きっと状況は変わるんです。
何よりもまず、消費者の意識が変わることが大事。数年間の日本での活動の末、そう痛感した森さんが今、仕掛けているのがオホーツク海を臨むパッシブハウスの体験施設「スロービレッジ」(北海道、網走市)です。
冬には流氷が着岸する、オホーツク海の大パノラマを望む丘の上。冬の最低気温はマイナス10℃。ここで、電力と下水道を外部インフラに依存しないオフグリッドのパッシブハウスを計画しているのです。住宅内およびクラウドでエネルギーレベルを可視化し、住まい手が暮らしかたの工夫を学べる仕掛けも取り入れます。
森:旅行ではなく、日常を体験しに来てもらいたい。ごはんをつくったりオフロに入ったりと普段の生活をしてもらう中で、居心地のよさや楽しさといった気づきが絶対にあるはず。そういう発見を持ち帰ってもらいたいんです。
それぞれの土地の気候に合わせた、オフグリッドの“かんぽの宿”みたいなイメージで(笑)いずれ、全国に広がっていくといいなと思っています。
極寒の地でのオフグリッドの暮らし。具体的にはどのような仕組みで実現されるのでしょうか?
森:イタリア製の、ビルトインのペレットストーブを入れます。背面に給湯回路がついていて、温水をつくってくれる仕組みです。
屋根には太陽熱の温水器を載せていて、夏はほとんどの給湯をまかなうことができます。冬になると太陽高度が下がるので太陽熱温水器の稼働は落ちますが、暖房としてペレットストーブを着火することで給湯がバックアップされるんです。
これで暖房・給湯は完結。寒冷地のため換気装置には熱交換機能付きで、夏は断熱や風通しのよい間取りで冷房要らず。冷蔵庫、照明器具、換気などどうしても電力を使うものは、太陽光発電でまかないます。
この給湯装置付きペレットストーブは、鎌倉のパッシブハウス・ジャパンのオフィスにも設置予定。古民家を省エネ改修したオフィスは、気軽に体験できるエコハウス。通りに面した開放的なガラス戸はトリプルガラスで、冬でも室温20℃のときに表面温度が19℃というから驚き!打合せスペースを兼ねた1階は、全国初のエコ建築専門書店(Green Finds)になっています。神奈川に近い人は足を運んでみるのもおすすめです。
つづく