第二回|「全女子が惚れる」森のカップケーキとケリーケトルコーヒー【最終回】
オフグリッド・カフェ。まずは、ロケットストーブなどの焚付けのための材料として枯れ枝を調達。燃料がそこかしこにたくさん落ちているって、素敵ですね。しかもタダ。森に人が入ることは、森が整い、獣害被害などを少なくするという意外な副産物もあります。
その森に入り、「この場所すごくいいねえ」と、自然と笑顔になる二人。東京在中の2人にとって、すぐ側で鳴いているヤギ、温子さんが差し入れしてくれた摘みたてのラズベリーで作ったジュースの美味しさなど、全てが新鮮な体験。
「空気いいなー」と篤史さん。7月の札幌はオオウバユリが咲く季節。良い匂いが辺りに立ち込め、自然のアロマがなんとも贅沢!
さっと集めた枯れ枝を細かく折ったものと、ちぎった新聞紙をロケットストーブに刺したT型煙突部分に入れて、火をつけます。焚き付けにはある程度風が必要なので、息を吹き込みつつ様子を見ます。
厨房にあるガス台やIHキッチンと違って、オフグリッドな火の加減は五感を使い、燃料を自らの手で投下し調整します。そう、それはほんの少し前まで炊事をする上で当たり前だった、暮らしの営みです。
「ロケットストーブの設置は、多少斜めになっていても大丈夫。草の上での直火は草が結構燃えちゃうのでやめた方がいいかも」。一定に保たれた店内の環境と違い、アウトドアはその場所、時間、など状況により火の扱いは変わります。
嶺央さんは鎌倉路地フェスタなどでロケットストーブとピーステンピを使用してカップケーキを焼くワークショップをこれまでに2回、実施しているそう。火をつける作業も慣れたもの。森の中では初挑戦ですが器用に、着々とケーキを焼く準備をすすめています。
こちらの煙突口は火がある程度燃えてきたら蓋をしめ、枝の補充は上の開口部分でしていきます。
「何で缶が二段重ねになっているの?」という篤史さんの質問に、「高さがこのぐらいないと温度が上がらない」と嶺央さん。なるほど。
息を吹き込んでいるうちに、少しずつ気流に勢いが出始めました。ちなみに枝は、燃料にもなればお箸代わりにも。日本人ならではの枝の活用法です。
対する篤史さんは、コーヒーを淹れる準備に取りかかります。そしてケリーケトル初使用。水の量など、手探りで進めている様子。
ケリーケトルは二重構造で、真ん中が煙突のように空洞になっており、内壁を熱することでお湯を効率よく沸かす仕組み。「ケリーケトルも、ロケットストーブと同じ仕組みなんだね」と篤史さん。「ガスを使わない」と聞くと何だか難しいことに感じるかもしれませんが、とてもシンプルな構造でお湯を沸かす事が可能になることを実感。
「あ、そうか、自分は嶺央くんのケーキが焼き上がるのを待ってから、お湯を沸かさないといけないんだ。すごく早まった(笑)」と話しながら眺めていたら、なんと数分も経たずに沸騰し、一同驚き。「少ない火でもお湯が沸かせるよう、ちゃんと考えられているんですね」と篤史さんも思わず感心。そして、あっという間にお湯が沸いた横で、ロケットストーブは苦戦中。少し枝が湿っているので、火のつきが今ひとつの様子。
「大自然の中でコーヒーを入れるのは初めての体験なんだけど、無事お湯も沸かせたし、もう仕事の8割を終えた感があるなあ」と篤史さん。ロケットストーブは火がつくまであともう一歩!現場も盛り上がります。
菜衣子:お!きた!音が変わった!やっぱり風が吹くと違うね、燃えている音がする。何か面白いなあ。
篤史:これ、ずるいよね。こんなのやったら楽しいに決まってる。
嶺央:楽しいですよ(笑)。
篤史:ロケットストーブと、このオーブンの組み合わせで、チキンとかも焼けるんでしょう?煙がそんなに出ないところもいいよね。
嶺央:そうですね。火力も強いし、料理の方がいろいろ作れると思う。
早速オーブンを乗せて余熱開始。このとき上部の煙突部分を塞いでしまわないようご注意を(五徳を上部に設置すると便利です)。
ここまでで、20分が経過。この時点でワクワク感、半端ないです。
そしていよいよカップケーキ作りがスタートします!
これまで何百回としてきた動作を新鮮に感じる、オフグリッドの不思議
さて、ここで本日のカップケーキのレシピをご紹介。12個焼けるミニマフィン型(1個当たりサイズ:直径約5×高さ3センチ)2回分、計24個のマフィンが焼ける分量です。嶺央さん曰く「ロケットストーブで焼くなら、このカップサイズがベスト」とのこと。
ちなみに嶺央さん、グラスを包んでいた包装紙を折って、その場で計量カップを作っていました。持ち運ぶツールをなるべく少なくして、知恵を使って美味しく料理するのが「贅沢なピクニック」の心得。さらに卵と砂糖は、やぎやさんからのお裾分け。卵は庭で飼っている鶏が生んだ朝採れのもの、溶きながら「すごい卵の匂いがする!」と嶺央さんが感動。
この間、篤史さんはロケットストーブの番人を担当。火の様子を見て、枝を補充していきます。
贅沢なピクニックの準備で、耳に聴こえてくるのは、風のそよぐ音や虫の羽音、そして、嶺央さんが生クリームを混ぜる「シャカシャカシャカ」という泡立て器の音のみ。黙ってその場にいるだけで心から満たされるような、何とも心地良い時間が流れます。
篤史:今まで、屋外での焙煎ワークショップ依頼が来ても断ってきたんだけど、嶺央くんを見ていたら、自分も外で焙煎しようかなという気持ちになってきたなあ。ロケットストーブで焙煎はできるのかな?
嶺央:オーブンの中は250℃くらいになっているので、焙煎も温度面では問題なさそうですよね。あ、篤史さん、もうお湯を沸かしてもいいかも。ケーキは、あと型にたらして焼くだけなので。
材料を型に流し込み、オーブンに入れるという、何百回としてきたはずの動作に対して、新鮮な喜びと、いつも以上の楽しさを感じることができます。
オーブンにケーキが入るまでに1時間経過。そして、完成間近です!
ここから10分、焼き上がるのを待ちます。「peace」の文字の上にはカップケーキ。何とも幸せな眺めではありませんか。
「暮らしを良くするための提案としてコーヒーがあるわけだから、暮らしがどうあるべきかを考えないのは格好悪い」
さて、ケーキの型をオーブンに入れ、あとは焼き上がるのを待つだけ。ポツリと「ロケットストーブを考えた人って、ホントすごいなあ」と嶺央さん。
嶺央:「2005年にハリケーンのカトリーナがアメリカを襲って、ニューオリンズの街はインフラも全て破壊されましたよね。それで、そこに住んでいた人たちがどうしようもなくなって、ある人がロケットストーブを作ったそうなんです。だから、昔からあるわけじゃなくて、最近のものなんですよね。」
ロケットストーブは、災害時で力を発揮し、2011年東日本大震災のときにも被災者支援に活躍しました。最近はアウトドア雑誌などでも紹介され、気軽にロケットストーブ作りに挑戦する人が増えています。シンプルな構造のため用途に応じた工夫の余地があること、燃料が落ち葉や枝など身近なものであることが、多くの人の好奇心を刺激しているのかもしれません。
菜衣子:ケリーケトルもロケットストーブも 、実際に自分でやってみた方がすごいって思うよね。私も今日まで半信半疑だったけど。
篤史:こういうことは、嶺央くんのやりたいことなの?
嶺央:やりたいことですね。ロケットストーブとピーステンピでケーキを焼くワークショップは、僕好きなんです。参加している子どもたちが、本当に楽しそうだから。ソーラークッカーでケーキを焼いたこともあるけど、そのときは生焼けになってしまって、ものすごく悔しかった。
「焙煎機もコンロの上に直接乗せるタイプのものがあるから、それを持って嶺央くんのところに合宿に行こうかな。ロケットストーブで豆をうまく焙煎する方法を考えたくなってきた!」と篤史さん。二人のカフェをめぐる冒険は、この後も続きそうな予感!
篤史:今度はロケットストーブを作るところからやってみたいよね。
嶺央:2〜3時間でできますよ。俺らも「暮らしかた冒険家」になりますか(笑)。
篤史:ユニット作ろうよ、マジで。
スペシャリティコーヒーを扱っている人は、もっとライフスタイルを充実させるための考えを楽しまないとだめなんだよね。スペシャリティコーヒーって、生産者や生産過程なども全部わかるから、どちらかと言うとオーガニックに近くて。そういう豆を扱っているのに、暮らしについて考えないのはおかしいよね。コーヒーに携わる人は、おいしいコーヒーの作り方だけを追求する傾向があるけど、そもそも暮らしを良くするための提案としてコーヒーがあるわけだから、暮らしがどうあるべきかを考えないのは格好悪いと思う。
オフグリッドな体験がもたらしたのは、自分たちが本当にやりたいことについて、想いを馳せる時間に。
そうして、ケーキをオーブンに入れてから10分ほど経った頃。辺りにとてもいい匂いが漂い始めました。嶺央さんは焼き加減を見ながら、焼き上がった2、3個を取り出します。
おもむろに味見をする嶺央さん。「これね、卵がうまい。卵の味がすごくする」とニッコリ。
沸騰すると、注ぎ口につめたコルクがスポーンと外れ、意外と大きな音でびっくりします。(ケリーケトルの公式サイトに掲載されていた動画を見てみたところ、コルク栓をしないでお湯を沸かしておりました)
「やべえ、この感じ、超楽しい!ケリーケトル超ほしいいいいいい!」とテンション上がり気味の篤史さんに、「きっと篤史、三日後には所有していると思うな」と菜衣子さん。すかさず嶺央さんも「俺もほしい!」と同意。使ったその場で全員がほしくなる、ケリーケトルの魅力たるや。
挽き立ての豆にお湯を注ぐ。「粉がふっくらしてきた!」と言う菜衣子さんに、「このガスが抜けている感じ、萌えるよね」と答える篤史さん。コーヒーへの愛を感じます。
「篤史さんのコーヒーは、少しぬるくなったときに一層香りがたつんですよね」と嶺央さんが教えてくれました。
淹れたてのコーヒーと、カップケーキの甘い香り。そして目の前に広がる大自然。焼きたてをその場で、しかも森の中で頂く贅沢!その場にいる人たちの表情も、とても穏やかです。
「カップケーキ、もっと食べてもいい?」と早くも5個目のケーキに篤史さんが手を伸ばします。
篤史:うまっ!コーヒーと、このいちじくのケーキとの相性、最高!外で飲むと一層おいしく感じるね。やっぱりコーヒーをおいしく入れられたときが、一番テンション上がるなあ。
嶺央:コーヒーってドライフルーツと合いますよね。今日は、ロケットストーブもケリーケトルもうまくいって、ホントに良かったです。
この笑顔。「贅沢なピクニック」は大成功。
「おいしいケーキとコーヒーがオフグリッドでもできるのか?」=「出来ました!!!!」
準備からここまでで、約2時間。自分の手で火をおこし、お日様の下で五感をフルに使いながら、ゆったりと大好きなものをつくる時間は、暮らしかたについて想いを馳せる時間でもありました。
何より一番大切なことは、嶺央さんが話してくれた「僕は、暮らしとか、そういう大きなことを考えているというよりは、とにかく外でケーキを焼くという体験がめちゃめちゃ楽しいから、こういうことを続けていきたい」。
めちゃめちゃ楽しくて、最後に待っているのは、おいしい時間。便利なものからは生み出されない豊かさを試してみたくなりませんか?ぜひ皆さんも、この素敵な冒険に加わってみてください!