第三回|個人の選び方、こだわりの積み重ねが未来をつくる
ジョニー:いろんな選択肢の中から「自分はこれが好き」って選べるっていうのは、いいですよね。でも選べるということは、一見当たり前のようでいてなかなか叶わなかったりもするわけです。だから、音と電源の関係ももちろん、あらゆるものに「選択肢」があるということは、とても豊かで尊いことだと思います。
後藤:みんなそれぞれ好みがあるはず。「僕はマイクだったらこれが好き」とか。これがいいんだよっていうのは、つまり「これが好き」ってことだもんね。選択肢があるのはいいことですよね。でも、たとえば肉。あまりに安くなりすぎた牛丼とか、値段が300円切ったりして。「これってどこかで誰かが泣いてる証でしょ?」って思う。“300円という選択肢”の裏で、そういう問題が起こっているんじゃないかっていう疑いをみんなが持って当然じゃないのって。
ジョニー:スーパーで買う肉よりも安いですもんね、牛丼って。どうなっているんだろって思っちゃいますよ。加工して、人件費もあるだろうに。
後藤:そう。そういうのは誰かがどこかで泣いている。だからそういう僕らの日々の“選択”の裏で、自殺するまで働いちゃう人がいるわけで。そういうのってブラック企業だって言ってしまえば終わっちゃうことかもしれないけれど、
菜衣子:でもやっぱ間接的には……。
後藤:そう、間接的に、自分たちの罪はゼロじゃないだろうって思うよね。なんでも「とにかくコストを下げよう!」っていう考え方が主流になって、仕事に対する敬意が昔に比べれば下がっているじゃない。江戸時代の分業制の話とか、いとうせいこうさんによく聞かされたりするけどさ、すごいんだよね。かんざしとかでもパーツごとにつくっている職人が違う、みたいなね。すごいよね。
菜衣子:そうなんだ〜。その話聞いてみたいなあ。
後藤:だからそういうワークシェアみたいなかたちで専門の職業があって。そういう技術の積み重ね、関わり合いでものができていたりして。でも、そういうことを全部省いていって、誰でもできる仕事を増やして、大量生産・大量消費みたいになっているわけじゃん。人間だって使い捨てになろうとしてる。社会を見ているとね……
ジョニー:そうですね、自分たちでそういう仕組みを作ってしまっている。西村佳哲さんが『自分の仕事をつくる』という本の中で、世の中は良くも悪くもひとりひとりの「仕事」の積み重ねでできている、と書いていて。みんなが「よくない仕事」をすれば、結果的に自分に跳ね返ってくる、と。でもそれは逆に、みんなが「よい仕事」をすれば、世の中良くなるということでもあるんですけどね。
後藤:あとやっぱり大事なのは「カネの使い方」だなって思うんだよね。それと「捨てない」ってこと。なんでも捨て過ぎでしょって。
菜衣子:「捨てていいもの」を買っているんですよね。
後藤:お金の使い方と、いかに捨てないかっていうこと。そのふたつの価値というか、考え方を変えていかないと。でも、どういうプレゼンするとみんなにそれが良いことなんだって伝わるのか、そこが難しい…。それはすごく考えてる。僕は一応、自分のことを詩人の端くれだと思っているから、どういう言葉遣いをしたらみんなに響くかとか、そういう言い回しを探してるんだけど。そして、そういった言葉遣いを探していることの比喩として行動がある。
どう話したり、どう語ったり、どういう言葉遣いをするとみんなに響くかっていうのを探していること自体が全部行動になってると思う、比喩としてね。それをみんなでやればいいんだよね、表現者は。